~Dr高桑の生活習慣病の予防について~

~飛騨地域の生活情報誌”SARUBOBO"に連載されたコラムです~

その1・・基本編

 この「生活習慣病」という病名は、故 日野原重明先生が提唱されたもので、それまでは「成人病」と言われてきました。あらゆる病気の元ですね。生活習慣病は、次の7項目について守ればかなり予防できます。

①朝食を必ず食べること。10品目を目指す
②間食を慎むこと
③運動はできるだけ毎日すること
④煙草は絶対に吸わないこと
⑤アルコールは適度を守って飲むこと
⑥十分な睡眠をとること(できれば7時間程度)
⑦太りすぎない、痩せすぎないこと。特にサルコペニア・フレイル(筋肉萎縮と筋肉量低下)にならない

 食事には特に気を付けます。3食の中で最も大切なのは朝食です。10品目を目標に摂っています。1例を紹介します。白米はお茶碗7分目、生卵1個、納豆1パック(付けダレは使用せず黒酢をかけます)、キムチ少々、葉物野菜のお浸し(すり胡麻をかけます)、ししゃも1匹、みそ汁(豆腐、なめこ、わかめ、ねぎ)、無塩トマトジュース(オリゴ糖と黒酢を加えて)、最後に季節の果物という献立です。毎日ほぼ同じです。昼も夜も大切です。1日に30品目を目指しましょう。その他砂糖、塩、油はできるだけ制限し炭水化物も食べ過ぎないようにしましょう。特にパンや麺類、パスタなど小麦粉の常食には注意してください。

その2・・油の話

 油にはラードなどの飽和脂肪酸、紅花油などのリノール酸、オリーブ油などのオレイン酸、EPAなどのαーリノレン酸があります。植物油であるリノール酸とEPAなどのαーリノレン酸はどちらも身体に必要なものではありますが、現代社会では、圧倒的にリノール酸が多く摂られています。リノール酸には血を固まりやすくする性質があります。反対にαーリノレン酸には血を固まりにくくする働きがあります(血液サラサラですね)。イワシやサンマなどの青魚、マグロの大トロにも多く含まれます。えごま油でも有名です。今、日本では心筋梗塞脳梗塞などの血管が詰まる病気がすごく増えています。当たり前と言えば当たり前なのかもしれません。そもそも日本人が油をたくさん摂るようになったのは1970年以降です。特に近年ジャンクフードと呼ばれる食べ物のチェーン店が全国に展開し、若い世代から日常的にリノール酸油を多く摂取するようになってしまったのです。
元々、日本固有の料理法は、油などの脂肪分をあまり用いず、淡白な味を基調としたものだったのですから、たった40~50年で食生活ががらりと変わってしまったのです。体を動かさなくなって(車社会)、ごちそう(脂、油)を摂りすぎた結果なのです。リノール酸とαーリノレン酸の摂取比を1:2としてください。油は控えお魚をたくさん食べましょう。

その3・・間食の話

先ずは厳しい話かもしれませんが…

「午前10時や午後3時のおやつはやめましょう!」

1、そもそも朝食をしっかり食べていないから10時頃にお腹が空いて間食をしてしまう。
2、10時に間食をするとお腹が比較的満たされるので、必然的に昼食の量が減ってしまう。
3、そのため3時頃お腹が空いて間食をしてしまい、お腹があまり空かないから夕食の時間が遅くなりがちになる。
4、夜遅めのガッツリ夕食は、次の日の朝食の妨げになり量が減る。そのため10時頃お腹が空いて間食する。
以上の繰り返しである。

つまり悪循環の要因は

午前10時と午後3時の間食にある・・

と言っても過言ではないのです。間食はやめて食直後のデザートとして摂ることをお勧めしています。

その4・・運動の話

今回は運動についてです。現代人がもっとも苦手なことかもしれません。運動で一番簡単なのはウオーキングです。いつでもどこでもその気になればできます。しかし簡単で気軽な運動とはいえ守ってほしい一応のルールがあります。

1、早朝起床時の飲まず食わず状態ではしないこと。

脱水やエネルギー不足による転倒や不注意による交通事故などが多いと言われています。ひどい時は心臓発作や脳卒中の引き金にもなります。私は最適なウオーキング時間は夕方をお勧めしています。

2、犬の散歩はウオーキングではありません。

犬の散歩自体はとても良いことだと思いますが、犬が止まれば自分も止まり、犬が便をしたらまた止まって後始末をしなければなりません。全く犬のペースです。これは犬のための運動でしかありません。自分のためのウオーキング運動を別でしてください。
ウオーキングの基本は30分以上止まらないこと。10分に1分間早足を3セット(計30分)行いましょう。また転倒防止のためにも両手にスキーのストックを持って地面を突きながらリズムよく歩く「ノルディックウォーキング」をお勧めします。
こうしてできるだけ毎日運動する習慣をつけることで、足の筋肉維持に努めてください。

私はと言いますと夏はテニス、冬はスキーです。テニスは週に3回コーチに教えてもらいながら、かなりきついメニューで行っています。スキーも指導員の指導を受けながらハードですが楽しんで励んでいます。おかげで足の筋肉は全く衰えていません。なんでも好きなことを続けることが一番ですね。

その5・・たばこの話

今回はたばこについてです。たばこは身体に大きな害を及ぼします。
1、タール 
ニコチンタールについては、知っているようであまり知らない事が多いのですが、これは道路にまくタールと同じ物です。少なくとも、200以上の発癌性物質が含まれていることがわかっています。  たばこを毎日20本吸いますと1年に約200mlのタールを肺に流し込む状態になります。肺癌にならない方が、不思議なくらいです。現在、肺癌の90%はたばこが原因だといわれています。

2、Co(一酸化炭素) 
次にCo(一酸化炭素)についてです。たばこを吸うと、血液中にCoが入ってきます。血液中の赤血球には、本来全身にO2(酸素)を運ぶ役割があります。ところが血液中にCoとO2が同時に存在すると、赤血球はCoの方にくっついてしまい、O2を運べなくなってしまいます。そこで仕方なく赤血球は増え続け、O2を運ぼうとします。それで喫煙者が多血症となるわけです。そのため余計に血液の流れが悪くなり、O2を運べない状態になります。  喫煙者が運動をすると息切れするのは、こんな事が身体の中で起こってるからです。たばこをやめてみると運動がとても楽しく、楽にできますよ。

3、気管支粘膜織毛細胞障害
随分と長ったらしい害名ですが、気管支には汚れた痰を外へ送り出すために、繊毛という毛があります。この繊毛はたばこを吸うとこわれてしまうのです。特にまだ繊毛が成長しきっていない未成年がたばこを吸うと、大人になった時には、肺気腫という病気になります。繊毛は一度壊れたら治りません。どんどん悪くなる一方です。  大人になってからたばこをすって35年が経ちますと、100%肺気腫になります。20歳から吸い始めたとして、55歳までですね。しかし、未成年の時から吸い始めると、何とこれが倍のスピードで肺気腫になってしまうんですね。  この繊毛の働きが悪くなると、痰が出せなくなります。それで、痰を出そうとして強く咳をします。咳をしないと痰が出せないからです。これが喫煙者特有の「ゴホッ! ゴホッ!」という咳なのです。これが更に進行しますと、肺が膨らんで硬くなります。息を吸うことも吐くこともできなくなります。肺が壊れた状態。これが肺気腫という病気なんです。絶対に治りません。とても苦しいですよ。

私がたばこをやめた頃には、まだニコチンガムもニコチンパッチもありませんでした。自分の意志しかありません。この"意志"はガムもパッチがある現在も基本的にはかわりません。まずは、たばこの害を知ることです。それから、どうしてやめるかという理由付けをしっかりすることです。肺癌になりたくないとか、肺気腫になりたくないとか、いわゆる死ぬような病気になりたくないというのも一つの理由になります。現在、社会全体がTASPOの導入(未成年者の喫煙防止)や、路上喫煙禁止区域の拡大(喫煙できる場所の制限)などで、No Smoking!への道を歩きはじめました。少々遅い位ですが、すばらしいことだと思います。たばこを吸っているみなさんもこれを機に禁煙をしてみませんか?

その6・・睡眠の話

睡眠の生理学がわかってきました。
まずは日中はよく食べ、よく動き交感神経優位1)に活動しましょう。夕食は肉や魚をたくさん食べて午後7時くらいまでに済ませましょう。そしてお風呂で体を温めて次第に副交感神経優位1)にしていきます。そしてできる限り午後10時から11時までに眠ることが理想です。眠りにつくと最初の10分間程レム睡眠2)が起こり、そのあと深いノンレム睡眠3)へと移行します。まさにこの時、子供は成長ホルモンが出て背が伸び、大人は自律神経が整うのです。その後はレム睡眠とノンレム睡眠を約90分間隔くらいで繰り返しながらだんだん眠りが浅くなり朝を迎えます。7時間程度が適当な睡眠時間です。

このような最良の睡眠を得るためには、朝の起床時間を一定にするよう心掛けることです。朝起きてゆっくりと、そしてしっかり朝食を食べ、胃・大腸反射4)でトイレも済ませば完全に交感神経優位となり、一日の活動開始です。この繰り返しで夜も早く眠れるようになるでしょう。そのためのアルコール摂取も多少ならば大目に見ます。

1)交換神経、副交感神経
交感神経と副交感神経は、自律神経と呼ばれる神経系です。自律神経というのは、自分の意志とは無関係に身体の機能を調節している神経です。交感神経が活躍するのは、緊張している時、興奮している時、ストレスがかかっている時等。副交感神経が活躍するのは、リラックスしている時、休息している時等。交感神経がアクセル、副交感神経がブレーキのイメージ。

2)レム睡眠
レム睡眠とは、脳は起きていて体は眠っている状態のことをいいます。脳は起きているため、眼球が動いたり、夢をみたりします。レム睡眠の「レム(REM)」とは、急速眼球運動(Rapid Eye Movement)の略です。目覚めの準備段階でもあるため、レム睡眠のときに目覚めるとすっきりします。

3)ノンレム睡眠
ノンレム睡眠とは、脳が眠っている状態のことをいいます。入眠直後にあらわれ、夢はほとんどみず、体を支える筋肉は働いています。眠りの深さによって、4段階に分類され、浅い眠りから深い眠りへと続き、その後浅い眠りとなりレム睡眠へと移行します。居眠りのほとんどがノンレム睡眠といわれ、昼休みなどに10~20分眠るだけでもスッキリするのは、ノンレム睡眠によって脳が休息するからです。

4)胃・大腸反射
食べ物が胃に入ったときに大腸が反射的に収縮して、便を直腸に送り出そうと運動をはじめるシステム。

その7・・肥満の話

痩せすぎも決して良くないのですが、近年は太りすぎが圧倒的に多いです。いわゆる肥満です。肥満には2種類あり、皮下脂肪型と内臓脂肪型です。これらは腹部エコー検査で充分な情報が得られます。皮下脂肪型は一般的には女性に多く、それだけではあまり病的ではありません。しかし最近では肝臓に脂肪が沈着する脂肪肝の合併が多くなりました。糖質の摂り過ぎで内臓にも脂肪がついた結果です。軽い運動と糖質制限で簡単に治ります。
一方、男性の場合はどうでしょう。私どもの診察によると近年仕事が忙しいらしく、食事の時間もゆっくり取れない方が多いようです。簡単な食事になりがちで遅い時間の夕食が多く、おまけにアルコールの量も増えてしまっているようです。当然肥満になり、脂肪肝へもつながります。血液検査で異常が出てこないので放置してあることが多いのですが、加齢に伴い心臓・血管系の病気が出てきます。全身の検査をしてみると内臓脂肪型肥満と脂肪肝がとても多く見つかります。これらの診断は必ずしも体格だけで判断はできません。中肉中背の方の内臓脂肪型肥満も多く存在します。中高年に差し掛かったら年1回の腹部エコー検査は必要ですね。